熊本地震

南阿蘇村 野﨑 真司 副村長

災害現場で陣頭指揮を執る

 平成28年4月16日本震、橋も道路も一瞬で消えた。南阿蘇村の阿蘇大橋では、懸命な復旧作業が続けられており、災害の傷跡が今もなお大きく残る。加えてその後の豪雨災害で新興住宅地は土砂で埋もれ、山林、農地もことごとく崩壊した。今、村では新たな村づくりへの活動が本格化している。被災と戦いながら未来を見据える野﨑真司副村長は、温和な姿から想像もつかないエネルギーを出しながら現場の陣頭指揮を執る。

南阿蘇村 野﨑真司 副町長

  • 南阿蘇村 野﨑真司 副町長

ライフライン復旧を最優先

断層による直下型地震だったので、南阿蘇の中でも旧長陽村に被害が集中しています。断層から200~300m離れると被害の度合いが全然違ったという状況でした。今回の被害の特徴は、直下型の地震と言う事で山腹崩壊と宅地の被害が多かったことでした。死者は災害関連死も含め23人にも上ります。宅地の被害に関しては今後の住宅再建にも関わってくる課題だと思っています。

インフラ・ライフラインの被害については、阿蘇大橋の崩落現場は皆さんテレビでよく見られたと思います。一般的には地震に強いとされる橋梁も大規模な山崩れにより崩落しました。また、実は農業被害が非常に甚大で、村内で500カ所にも上る被害があります。先行して発注した公共土木の災害復旧事業は一応メドはつきましたが、農災は建設業者の手が回らず、不調、不落が続き、今後、広域的な発注を考えています。

道路は国道57号と俵山トンネルなどがある県道熊本高森線が主要アクセス道路でしたが、これが両方やられました。唯一、熊本市内から使えた道路というのがグリーンロードと呼ばれる村道でした。ただ、この道路は1000m級の山を越えなければなりません。約半年ぐらいはそんな状況でした。やっと俵山トンネルが平成28年12月に、長陽大橋が今年の8月に復旧し格段に利便性が向上しました。

集落再生事業で村づくり

被害が集中している旧長陽村は、山間部の小規模な集落が多く、全壊・半壊が5割とか、酷いところになると8割超という壊滅的な被害になっており、集落の再生が我々の大きな課題です。高齢化率も高いので、集落そのものがなくなるという危機感があります。集落再生に向けて事業を取り入れ地域の住民の方々と意見交換をしながら村づくりを進めているところです。

地すべり被害があった高野台分譲地は、急傾斜の指定もないなだらかな斜面です。ここがなぜ地滑りを起こしたのかがよくわかりません。大学の先生などの専門家によれば、振動によって津波みたいになるアースフローではないかという説があります。地盤としては、下に岩盤があってその上に火山灰と土が積もっています。その境界が振動で緩くなって滑ったのではないか…。被害状況を見てみると、例えば絨毯の上に乗ったみたいに家がそのまま横に移動したりもしています。家はまっすぐ建ったままです。高野台分譲地は16戸の分譲住宅地でしたが、そのうちの8割近くが土砂に飲み込まれています。景色が良いものですから、そこに憧れて移住してこられた方々でした。

阿蘇大橋は遺構の選択肢も

阿蘇大橋は、まだ床版が河川に崩れたままです。災害の遺構を残したらどうかという話もあり、安定性、安全性の問題がクリアできるならば当面、このまま残す選択肢もあります。長陽大橋は、発災当初には橋梁と取付道とのズレが2m近くありました。山側の法面は振動によって崩壊しましたので、今は、山を切り崩して別の取付道路に変えており、段差が無くなっています。橋脚自体は基礎をしっかり打ち込んでいたので大丈夫だったのですが、床版がやられてしまいました。この橋から南阿蘇側への道は、応急復旧で仮橋を載せているだけです。今も災害の現場が残っています。

阿蘇大橋被災箇所

  • 阿蘇大橋被災箇所

山崩落への不安大きい

緩斜面の農地災害で特に酷かったのは乙ケ瀬地区で、山雪崩と言いますか、地滑りが至る所で発生しています。ここは団体営で熊本県が創造的復興より圃場整備をやる予定ですが、非常に大規模でとても通常の村の農災では実施できない状況となっています。道路損壊では、村内至る所で山腹崩壊により大規模な被害となりました。砂防ダム等が多数計画されています。ところがそもそも山になだれ込んでいる流木とか、土砂の撤去はしないものですから、これに対する不安が広がっています。雨が降るたびに土砂が出てきますし、流木の破壊力は大きいということで、下流の住民から木を撤去できないかという要望が出ています。

全体として山の崩落に対する住民の不安は非常に強いものがあります。そのため立野地区では長期避難を指定して対処したところです。山の亀裂や転石に対して十分な対処が出来ていないということで、そこに住民の不安が募っています。「山がこんなに不安定なのに帰って住めるのか」という声があるのも事実です。

今回の地震では、益城町とかになると断層の真ん中で振動幅が大きいのか広範囲に被害が広がっています。南阿蘇村の場合は、断層の端だったので局地的な被害だったと言う事が言えると思います。例えば、立野地区と黒川地区に被害が集中しています。それと山です。標高が高い方が揺れ幅が大きいので崩落する可能性が高いうえ、特に阿蘇は火山灰質の弱い地盤となっています。今のところ地震も収まって人家などに直接的に影響はしませんが、今後の雨による被害が心配です。山腹崩壊対策を今から考えていかなければなりません。

衛星電話は役には立たない

震災直後は想定を超える被害に役場の危機管理体制がうまく機能せず、混乱が生じました。自分たちが被災していたためなのですが、ここは益城と違って全体が被災したわけではありませんでしたので、被害が少なかった白水・久木野の職員を中心に対応しました。ただ、避難者が4000人程いましたので、避難者対応をやっていると、そこを離れられなくなります。道路も遮断していたので、国・各県からの派遣職員で災害対策本部を作りました。電力は九電が発電車を投入し3日目には回復しました。通信も結構早かったみたいです。我々は衛星電話を持たされていましたけど、あまり意味がないというか、室内は通じないので災害対策本部では役にたちませんでした。

昨年8月に応急復旧した長陽大橋

  • 昨年8月に応急復旧した長陽大橋

地盤対策にアドバイザー必要

ここでの住宅地の特長としては、眺望を求めて崖際に家を建てているところがあることです。そういった所が被害を受けています。そこに急傾斜事業を入れて、住める状態にする訳ですけど「もう住まない」とおっしゃる方がいる。でもそうすると急傾斜事業が出来ません。これからの課題でもあります。
地盤被害対策に対しては、専門のコンサル業者がいないことで困っています。現場の話を聞いてみると、東日本大震災で地盤対策を経験した 業者とかは上手くやっているそうです。国のメニューが出る先を見越した対応をやっていると聞きます。
例えば、我々の宅地被害箇所で擁壁を整備する時は、土木工事では建築確認とか考えていませんでした。ところが法枠ではダメで、ブロック積でやらなければならないとかの問題が発生しています。そんなところを早くからアドバイスしていただける技術者が必要だと感じています。